精神科作業療法について
精神科作業療法とは
当院では精神科リハビリテーション=精神科作業療法では統合失調症を中心にさまざまな疾患、症状で困っている患者様とそのご家族のために日々取り組んでいます。
主な疾患
統合失調症 | パーソナリティ障害 |
うつ病 | てんかん |
双極性感情障害 | 知的障害 |
不安症・強迫症 | 発達障害 |
精神科OTのとりくみ
患者様の現在「困っている」症状の一つ一つを具体的に、臨床場面でアセスメントしています。精神科リハビリテーションの専門家である私たち作業療法士は患者様の状態を「精神症状が悪い」と簡単に言い表せる一言でひとまとめにしません。
精神症状とは ~妄想幻聴だけが精神症状ではない~
一口に『精神症状が悪い』と言っても、その様子は様々で、種類も程度も人によって異なります。同じ病名であっても、症状の出かたは変わってきます。精神症状・兆候の何がどの程度でているのか、具体的にアセスメントし、患者様の全体像を把握します。一口に『精神症状が悪い』と言っても、その様子は様々で、種類も程度も人によって異なります。同じ病名であっても、症状の出かたは変わってきます。精神症状・兆候の何がどの程度でているのか、具体的にアセスメントし、患者様の全体像を把握します。
1.外観 | 4.認知 | 7.思考 |
2.意識 | 5.感情 | 8.知覚 |
3.記憶 | 6.意欲 | 9.自我 |
ここではMSE (Mental Status Examination)という視点に基づいて精神症状を掘り下げていきます。精神症状を具体的に評価するための分かりやい視点です。
引用元:メンタルステータスイグザミネーション(精神看護出版 武藤教志著)
1.外観
患者さまの表情や姿勢、言動、行動、しぐさ、態度などに現れます。
症状のヒントは実は外観に多くみられます。
会話の内容やまとまりの変化 | 迂遠、独語、多弁 |
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無表情になる、怒りっぽくなる | 仮面様顔貌、精神運動興奮 |
歩き方、姿勢の変化 | 小きざみ歩行、動作緩慢 |
手洗い行動 | 強迫行為、常同行為 |
生活の様子の変化 | 過活動、浪費 |
2.意識
わたしたちの精神・認知機能が正しく働くためには意識があることが必要です。
精神症状の一つとして、意識の障害があります。
もうろう状態 | 抑制欠如、徘徊などがみられ、錯覚や幻覚、不安が出現 |
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せん妄状態 | 錯覚・幻覚と精神運動興奮や不安が加わった状態。意識の清明度が著しく変化する |
アメンチア | 軽い意識障害があり、思考のまとまりが無く、周囲の状況が理解できずに困惑している状態 |
3.記憶
認知症に代表される記憶障害ですが、精神障害にも記憶障害が現れることがあります。記銘=覚える、保持=記憶を保つ、想起に障害が生じる記憶障害と、時間・場所・人が分からなくなる見当識障害があります。
4.認知
「認知機能」には多くの意味が含まれています。そこで、わたしたちは認知機能を3つに分類して捉えています。
1神経認知機能(脳の機能としての認知機能)
- 注意、学習と記憶、実行機能、言語、知覚-運動など、認知症の中核症状に見られる認知機能の障害が精神障害にもみられます。詳しくは認知症に対する作業療法をご覧ください
2社会認知機能(対人場面での認知機能)
- 心の理論:他者の意図、傾向などを推し量る能力。これが障害されると他者の考えや感情に無頓着になる
- 社会知覚:言語/非言語的な手がかりから、状況の文脈や、相互の関係性、役割などを同定する能力。空気読む機能。
- 社会知識:社会における相互関係、ルールや役割りに関する知識など。
- 帰属バイアス:事象の原因を推測する機能。
- 情動処理:情動の認知と使用に関する認知。
3メタ認知(自分の認知の内容やパターンを認知)
- 自分の「認知」の仕方を自分自身が認知する。
- 現在、自分自身が行っている行動や思考そのものを自分自身が客観的に認識する認知機能を指します。
5.感情
喜怒哀楽に表現されるように、患者差の喜び、恐れ、怒り、不安などの感情面に症状が現れることがあります。統合失調症だけでなく、うつ病や双極性感情障害の患者様の感情の変化も状態変化を捉える重要なヒントとなります。
例:躁・軽躁状態、易怒性、易刺激性、焦燥、抑うつ、感情の平板化・鈍麻など
6.意欲
意欲とは『何かをしようとする』意思の働きです。意欲は行動という形で表出されるため、行動の異常と重なる部分が多くあります。
例:意欲増進、衝動行為、精神運動興奮、脱抑制、意欲減退、無為、自閉、無関心、カタレプシーなど
7.思考
思考とは『考えるという行為』、『考えた内容=観念』、『考える道筋』です。 思うこと・考えていることは内面的なものなので直接見た目にはわかりませんが、言葉、会話、行動から明らかになります。個人的にはこの思考の障害が精神科医療における特徴と感じています。 思考の障害は『形式・思路』、『体験』、『内容』に分類されます。
形式思路 |
考えの流れ・まとまり・進み方。本来、思考はまとまってスムーズに流れていきますが、それがむずかしくなります。 例:速度・連続性の変化、思考制止、連合弛緩、滅裂思考、観念放逸など。 |
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体験 |
思考を自分でコントロールできなくなる。自我障害とも言われ、統合失調症に特徴的に現れます。 例:強迫思考、させされ体験、思考吹入、思考奪取、思考伝播 |
内容 |
考えている内容。その内容が現実的にありえないことでも、本人は内容を確信していて訂正できないことがあります。 例:妄想、恐怖 |
妄想の種類
- 妄想知覚=知覚された事実に特別な意味を付加する『あの(ドアのしまる音など)音は私を殺すぞ、という意味だ』
- 妄想着想=誤った意味がいきなり分かる
- 妄想追想=記憶が妄想的にゆがめられる
- 被害妄想=なにかによって自分が迫害されている
- 注察妄想=誰かに見られている
- 誇大妄想=自分には特別に高い能力や価値、立場が備わっている
- 罪業妄想=とんでもない罪を犯してしまった
- 貧困妄想=自分はお金が無くて貧乏である
- 心気妄想=不治の病に罹患していて助からない
- 妄想性障害=はっきりした幻聴や自我の障害、意欲の減退などを伴わない
など
8.知覚
見る、聞く、触る といった五感を通して認識するもの。
錯覚
- 不注意錯覚:他人を知人と間違えて声をかけてしまう
- 情動錯覚:暗い道をびくびくしながら歩いている時に木が人に見えたりする
- パレイドリア:壁のシミが人の顔に見えたりする
精神疾患で起こりうるが、正常者にもみられることがあります。
幻覚
- 目に見えるものを『幻視』、聞こえるものを『幻聴』と言います。
- 『幻覚』とは幻視や幻聴などをまとめてさす広い概念のこと
- 幻嗅、幻味、体感幻覚
9.自我
『自分は自分である』という感覚、自我の働き。現実検討や判断に重要な要素です。
例:現実検討能力の低下、離人感、自動症、自我境界があいまい、させられ体験といった形で現れます。