低侵襲心臓手術センター
はじめに
当院では、心臓病センター開設以来、人工心肺を使用しない冠動脈バイパス術(off-pump CABG)を、行なってまいりました。特に、左前胸部小切開開胸(LAST:left anterior small thoracotomy)法により冠動脈血行再建を行うMIDCAB(Minimally invasive direct coronary bypass)は、全国に先駆けて導入いたしました。
近年、弁膜症手術も手術機器や人工心肺装置の進歩、内視鏡視下手術の導入で安全に小切開手術が行われるようになり、低侵襲心臓手術(MICS:Minninary invasive cardiac surgery)として、普及し日本でも多くの施設にて行われております。MICS本術式は、可能な限り小さな開胸創で手術をすることで、術後疼痛及び出血が軽減され、胸郭機能温存により呼吸機能に対する悪影響が少なく、早期社会復帰が可能と言われます。しかし、小切開開胸であっても従来の胸骨正中切開に比して、心臓手術の完成度に差が生じてしまっては意味がありません。また、安全管理の確実な担保が得られないのであれば、本術式を導入することはできません。
2011年には、DSA(Digital Subtraction Angiography)を完備したX線透視装置を持つHybrid手術室を造設し、手術室壁面に8面のハイビジョンモニターを設置し、術中胸腔鏡映像などの手術画像、検査所見、バイタルモニターを、手術室スタッフ全員が、共有することが可能となり、当院でも、低侵襲心臓手術を、患者さまにご提供できる様になりました。
今後、大動脈疾患のステントグラフト内挿術、末梢動脈疾患に対するカテーテル治療とともに、さらに難易度の高い心臓手術も患者さまのご負担を可能な限り少なく、安全に提供できるよう、よりいっそう研鑽を積んでまいります。
“体に負担の少ない心臓手術”を “低侵襲心臓手術” Minimally Invasive Cardiac Surgery,略してMICS(ミックス)といいます。MICSでは胸骨を切らずに肋骨の間のスペースからアプローチして手術を行うため術後早期から通常の生活が可能となります。また創が5cm程度と小さく術後の痛みが少ない,出血が少ない,美容効果が高いといったメリットがあります。MICSが可能な病気は,大動脈弁の病気,僧帽弁の病気,心房中隔欠損症,心臓腫瘍の一部などがあります。とくに僧帽弁閉鎖不全症に対するMICSの技術は近年飛躍的に進歩しています。そのため逆流がありながら無症状で経過する場合でも,早期の弁形成術を行うことが勧められています。さらにMICSの導入により,早期社会復帰も可能となっています。
私自身は平成24年より世界屈指の心臓病施設であるジャーマンハートセンター・ミュンヘンへ臨床留学し、MICSを中心に心臓弁膜症の手術手技を研磨して参りました。平成28年5月より大和成和病院心臓血管外科 主任部長に就任し、すでにたくさんの患者様にMICS弁形成手術を受けていただいており、弁膜症の専門外来を設けております。循環器専門病院である大和成和病院はすべてのスタッフが心臓のエキスパートであり、チーム医療が不可欠なMICSには最適の環境です。MICSをご希望されるよりたくさんの患者様に手術を受けていただけるよう努力してまいります。
MICSは仕事を長く休むことのできない働き盛りの患者様にお勧めです。