診療科・部門

脳神経外科

代表的な取扱い疾患について

脳血管障害

①脳動脈瘤

脳動脈瘤は脳血管の一部が病的に膨らみ、動脈の壁が薄くなった状態です。膨らむ際に症状はなく、巨大化すると周囲の脳神経や脳実質に圧迫が加わり、何らかの神経症状を呈します。そのような圧迫がなくても、突然に破裂し、大病のくも膜下出血を生じる場合があります。破裂の危険性が高い未破裂脳動脈瘤、何らかの圧迫症状の原因となっている脳動脈瘤、くも膜下出血に至っている脳動脈瘤は治療の適応となります。脳動脈瘤を治す薬物治療はないため、外科治療が必要となります。その方法は開頭脳動脈瘤クリッピング術と血管内脳動脈瘤塞栓術があり、両者には長所と短所が存在するため、脳動脈瘤や病態にあわせた治療方法を選択します。

開頭脳動脈瘤クリッピング術

頭皮を切り、頭蓋骨を外し、脳の間から脳動脈瘤に至ります。そこで脳動脈瘤をチタン製の医療用クリップで挟み、動脈瘤内部に血液が流入しないようにします。動脈瘤のみの遮断が困難な時は、バイパス術を併用し動脈瘤の母血管ごとクリップします。

開頭脳動脈瘤クリッピング術[写真]

術前(左)では、形が不整な動脈瘤(白矢印)が確認されるが、術後(右)では複数の医療用クリップ(銀)により動脈瘤が消失している。

開頭脳動脈瘤クリッピング術[写真]

脳の間から動脈瘤(白矢印)を露出させ(左)、医療用クリップで挟まれている(右)。

開頭脳動脈瘤クリッピング術[写真]

術前(左)には直径20mmの動脈瘤(白矢印)が確認される。大腿の静脈でのバイパスを併用(黄矢印)し、動脈瘤をクリップしている(右)。

血管内脳動脈瘤塞栓術

頭皮や頭蓋骨を切らずに、主に鼠径部(大腿部)から血管内にカテーテルを挿入し、それを脳の動脈瘤近傍まで誘導します。動脈瘤の内部にカテーテルからプラチナ製の医療用コイルを充填し、動脈瘤内部に血液が流入しないようにします。

 血管内脳動脈瘤塞栓術[写真]

術前に動脈瘤(白矢印)が確認されるが、術後は動脈瘤内部にコイル(黄)が充填されている。

②脳梗塞

a)脳梗塞(急性期治療)

急性期治療

脳の血管が閉塞しても、急には脳梗塞に至りません。したがって脳梗塞になる前に閉塞した血管を再開通させることにより、脳梗塞を回避する事が出来ます。当院では24時間365日、脳梗塞に対して急性期治療が施行できる体制を整え、積極的に行っています。

血栓溶解療法

本邦では2012年より発症後4.5時間以内の脳梗塞に対して行うことが出来る様になった点滴療法です。

血栓溶解療法[写真]

投与前(左)は片側の脳全体を栄養する脳血管(黄)の描出がないが、投与後(右)は脳血管の再開通が確認される。

血管内血栓回収療法

カテーテルを閉塞した脳血管の手前まで誘導し、カテーテルから血栓を回収する器械を出して治療します

血管内血栓回収療法[写真]

血栓を回収する前(左)では閉塞した血管(黄)が、血栓回収療法により脳の血管が確認されます(右)。

外科的血栓摘出術

前出した治療でも閉塞血管に開通なく、適応のある症例では開頭手術で血栓を摘出します。

外科的血栓摘出術[写真]

血管の中に黒い血栓(白矢印)が透見されます(左)。血管の中から血栓(黄矢印)を摘出し(中)、摘出後は血管を縫合します(右)。

②-b脳梗塞(慢性期治療)

脳梗塞の中には、大きな脳梗塞の原因となる頚部から頭部の血管に異常がある場合があります。その様な症例では、大きな脳梗塞が生じない様に、病態に即した手術が施行される場合があります。まず、頚部内頚動脈狭窄症に対する治療方法は頚部内頚動脈内膜剥離術と頚部内頚動脈ステント留置術が存在します。両者には長所と短所が存在するため、病変や病態にあわせた治療方法の選択がされます。

頚部内頚動脈内膜剥離術

頚部の皮膚を切開し、頚動脈を露出します。頚動脈を切開し、血管狭窄の原因となっているプラークを摘出し、血管を拡張します。

頚部内頚動脈内膜剥離術[写真]

術前(左)では頚部内頚動脈に狭窄病変が確認されるが、術後(右)は狭窄病変が改善している。

頚部内頚動脈内膜剥離術[写真]

頚部の頚動脈が露出され(左)、予定切開線に色素を付着している。プラークを摘出している(右)。

頚部内頚動脈内膜剥離術[写真]

プラーク(左)を摘出後、血管を縫合します(右)。

頚部内頚動脈ステント留置術

カテーテルを狭窄した血管に誘導し、カテーテルからステントを留置します。プラークを血管に押しつけ、 血管を拡張させます。

頚部内頚動脈ステント留置術[写真]

頚部内頚動脈に狭窄所見(矢印)が確認される。

頚部内頚動脈ステント留置術[写真]

ステント挿入により改善している

浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術(バイパス術)

脳の血管が徐々に狭窄し、閉塞に至る場合は、体の防御反応による自己バイパスが作成され脳梗塞に至らないように自衛します。しかしその自衛も限度があり、遂には脳梗塞に至ります。その様な症例では、脳梗塞が再発する可能性が高いため、その予防にバイパス術を施行します。

バイパス術はもやもや病に対しても行います。もやもや病は、脳梗塞や血管破綻で脳出血が生じる難病で、バイパス術により脳梗塞や脳出血の再発を予防が期待できます。そのバイパス術は、浅側頭動脈(こめかみに触れる頭皮を栄養する血管)を用いた直接血行再建と側頭筋(こめかみの筋肉)や硬膜(脳を包む膜)など用いた間接血行再建を併用した複合的バイパス術を施行します。

>浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術[写真]

術前(左)は中大脳動脈(黄)が閉塞しているが、術後(右)は、浅側頭動脈(矢印)が中大脳動脈にバイパスされている。

>浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術[写真]

脳の中大脳動脈(黄矢印)に浅側頭動脈(白矢印)がバイパスされている。

③脳出血

多くの脳出血の原因は、高血圧による脳の微小動脈の動脈硬化です。治療の基本は点滴治療ですが、外科的に血腫除去術を施行する場合があります。その方法は開頭もしくは内視鏡で血腫を摘出する方法がありますが、その両者には長所と短所が存在するため、病態や患者さんの状態にあわせて選択します。

脳出血[写真]

術前CT(左)で脳内に血腫(白い部分)が確認されるが、術後CT(右)では開頭手術により除去されている。

④脳動静脈奇形

脳動静脈奇形は、けいれん発作や脳出血の原因となる先天的な血管奇形と考えられています。その治療は困難で、外科治療単独では治療が困難な時には血管内治療や放射線治療を組み合わせ、病態に即した治療を選択します。

脳動静脈奇形[写真]

頭部CT(左)で脳出血が確認される。頭部MRI(右)で脳出血内に異常血管(矢印)を示唆する所見が存在する。

脳動静脈奇形[写真]

脳血管撮影では術前(左)に確認された異常血管(黄)は、術後(右)は除去されている。

脳動静脈奇形[写真]

脳動静脈奇形(白矢印)が摘出されている。(左:摘出前、中:摘出中、右:摘出後)

脳腫瘍

①髄膜腫

人間の脳を覆う膜は複数存在し、その一つが硬膜です。硬膜が腫瘍化し脳を外から圧迫する腫瘍を髄膜腫と言い、その多くは良性腫瘍です。それに伴う症状は、腫瘍の存在部位により異なります。何らかの症状を示しているものや腫瘍が増大傾向にあるものは無症状でも手術の適応となります。手術は開頭腫瘍摘出術が選択されますが、腫瘍の存在部位により内視鏡を用いる場合や手術の前に腫瘍の栄養血管をカテーテル治療で閉塞させ、安全に手術を行う場合があります。また補助治療として放射線治療がありますが、内科的な治療は存在しません。

脳腫瘍[写真]

術前MRI(左)では髄膜腫(矢印)が確認されるが、術後MRI(右)では髄膜腫は摘出されている。

②神経鞘種

脳本体から出る脳神経や脊髄神経に出来る良性腫瘍です。出来る神経により名称が異なりますが、耳の神経に出来る聴神経鞘腫が最多です。その症状は耳鳴りや聴力低下で生じ、眩暈感など加わり、最後には脳神経や脳組織への圧迫症状を呈します。治療は外科的治療で摘出することが主体でありますが、症状や画像所見から放射線治療や治療をせず経過観察される場合があります。外科的治療の方法は開頭手術が施行されます。

神経鞘種[写真]

術前MRI(左)では腫瘍(黄)が確認されるが、術後MRI(右)では腫瘍は摘出されている。

③下垂体腺腫

下垂体は全身のホルモンを司る器官で、その部が腫瘍化する多くは良性の下垂体腺腫であります。下垂体腺腫はある一定のホルモンを多量に分泌する機能性下垂体腺腫とホルモンを分泌しない非機能性下垂体腺腫が存在します。前者は、分泌されるホルモンの種類により内科的治療や外科的治療を選択します。後者は、下垂体腺種により周囲の脳組織や脳神経に圧迫がある場合には外科的治療を行います。最も生じやすい症状は視力、視野障害です。外科的治療の主体は内視鏡を用いた摘出術です。状況により開頭手術や放射線治療を併用する場合もあります。

下垂体腺腫[写真]

術前のMRI(左)では白く腫瘍(矢印)が確認されます。術後のMRI(右)では腫瘍は摘出され、視神経や下垂体茎など正常構造物が確認されます。

下垂体腺腫[写真]

内視鏡下で腫瘍(黄矢印)が確認される。

④悪性脳腫瘍(神経膠腫、転移性脳腫瘍)

悪性脳腫瘍は良性のものとは異なり、脳組織に浸潤していきます。また脳の多様な場所に生じる可能性があり、症状は様々です。症状や脳腫瘍の局在を考慮し、安全に摘出可能な部位を開頭外科手術で、多くの手術支援機器を用いて摘出します。摘出できない脳組織に浸潤した部位は、悪性脳腫瘍の種類にあわせた放射線治療や化学療法(薬物療法)を施行します。

悪性脳腫瘍[写真]

術前MRI(左)では腫瘍(黄)が確認されるが、術後MRI(右)では摘出されている。術後の病理検査では悪性腫瘍の神経膠芽腫と診断され、放射線治療や化学療法を施行した。

外傷

①急性硬膜下血腫、急性硬膜外血腫、脳挫傷

衝撃の強い頭部打撲を負うと、頭蓋内に出血が生じ急速な神経症状を呈します。重篤な出血の場合には致命的になる場合があるため、救命目的の手術を施行し出血を除去する場合があります。出血が存在する部位により後遺症の程度は異なりますが、一般的に脳挫傷(脳自体の損傷)を伴う場合には、手術を施行しても重篤な後遺症が残存する傾向にあります。

②慢性硬膜下血腫

通常の慢性硬膜下血腫は、病院に受診するほどでない軽微な頭部打撲後に、数週間から数か月かけて頭蓋内に血が貯まり、多様な症状を呈します。この疾患は日常診療で良く診られるもので、手術(穿頭血腫洗浄術)は局所麻酔で、数センチ皮膚切開後に一円玉程度の穴を頭蓋骨に設け、貯まった血を抜きます。通常は手術により症状は回復します。

機能性疾患

①神経血管圧迫症候群(三叉神経痛と顔面けいれん)

脳から出た神経は、脳の隙間を通り、支配する部位に枝分かれします。その隙間で通常は離れている血管と神経のある部位が接触すると、その神経の症状が出る場合があります。その代表的な疾患として三叉神経痛と顔面けいれんが存在します。前者は片側の顔面に疼痛、後者は片側の顔面にピクピクとした痙攣が意図せずに生じます。MRIなどで上記診断となった場合には、薬物治療を行いますが、顔面けいれんの場合にはボドックスという安全な毒素を注入する治療を行うこともあります。それらの治療でも効果が乏しい場合には外科治療の適応となり、開頭手術(微小血管減圧術)で接触している血管と神経を剥がします。また放射線治療やブロック注射を補助的に行う場合も存在します。

神経血管圧迫症候群[写真]

神経(緑)と血管(赤)が接触している。

神経血管圧迫症候群[写真]

神経と血管が接触(黄)している(左)ため、接触を解除(中央)し、医療用シートで固定(右)されている。

②特発性正常圧水頭症

特発性正常圧水頭症は、原因不明ながら頭蓋内の脳脊髄液が貯まり、認知症状を呈する疾患のひとつであります。その他の症状は歩行障害や尿失禁が存在し、画像で水頭症があり、脳脊髄液の一時排出試験で症状が軽快するものは外科治療の適応となります。手術は脳脊髄液の迂回路を腹腔内へ作成します。その代表的な方法は腰椎腹腔シャント術で、脳室腹腔シャント術や心房腹腔シャント術が選択される場合もあります。